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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)584号 判決 1985年10月11日

原告 誠心院

右代表者代表役員 荒木本恵

右訴訟代理人弁護士 若松芳也

同 宮永基明

右訴訟復代理人弁護士 山口義治

被告 佐藤優男

右訴訟代理人弁護士 菱田健次

右訴訟復代理人弁護士 菱田基和代

主文

一、被告は原告に対し、別紙物件目録記載の土地を、同地上の木製等の構築物及び陳列ケース・棚等の露店設備一切を収去して明渡せ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は仮に執行できる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 主文一、二項同旨。

2. 仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、京都市中京区新京極通り六角下ル中筋町四八七番地所在の境内地を所有している。

2. 被告は、右土地のうち別紙物件目録記載の土地部分(以下「本件土地」という)の上に、木製等の構築物及び陳列ケース・棚等の露店設備(以下「本件露店設備」という)を所有して、本件土地を占有している。

よって、原告は被告に対し、所有権に基づき、右露店設備収去土地明渡を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1は認める。

2. 同2のうち、本件露店設備が被告の所有に属するとの点は否認し、その余は認める(被告は、はじめ本件露店設備を被告が所有していることを自白しながら、その後右自白を撤回し、原告は右自白の撤回に異議を述べた)。

なお、本件露店設備は、原告から本件土地を賃借している高橋元子が所有しているもので、同人は田中正幸に対し本件露店設備を賃貸し、以下同人から前田勝治へ、同人から鷹尾浩二へ、同人から被告へ、順次本件露店設備が転貸されているものである。

三、抗弁

1. 原告は、高橋元子に対し、本件土地を期間を定めないで賃貸し(賃料は契約締結後改訂を経て、現在一か月七〇〇〇円)、これを引き渡した。

2. 高橋元子は田中正幸に、同人は前田勝治に、同人は鷹尾浩二に、同人は被告に、順次それぞれ期間を定めないで本件土地を転貸し、これを引き渡した。なお、被告が鷹尾浩二から本件土地を借り受けたのは昭和四七年ころであり、被告が現在鷹尾に支払っている賃料は一か月五万円である。

3. 原告は、右各転貸について、その都度承諾した。

4. 仮に明示の承諾がなかったとしても、被告が昭和四七年ころより本件土地上で店舗経営を継続してきたことに対し、原告は、本件訴えを提起するまで、右事実を知りながら異議を述べることがなかったのであるから、被告に対する本件土地の転貸を黙示的に承諾していたというべきである。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1ないし3の事実は否認する。

2. 抗弁4の事実について

被告が店舗経営を継続してきたことに対し、原告がこれを知りながら本件訴えを提起するまで異議を述べなかったことは認める。しかし、それは被告が暴力団に通じていたため異議を述べたくてもできなかったためである。

五、再抗弁

1. 原告は、高橋元子に対し、昭和五八年六月一一日、本件土地賃貸借契約の解約の申入をした。

2. その後一年が経過した。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁1の事実は不知。

七、再々抗弁

原告と高橋元子との間の本件土地賃貸借契約は、建物所有を目的とするものである。

八、再々抗弁に対する認否

否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因について

1. 本件土地を含む請求原因1記載の土地を原告が所有していることについては、当事者間に争いがない。

2. 本件露店設備の所有関係について

昭和五八年四月一四日から同月一七日当時の本件土地及び露店設備現場の写真であることに争いのない検甲一ないし一四号証、及び被告本人尋問の結果によれば、本件露店設備は、その南側は隣の建物の壁面に、東側はブロック塀に各接し、西側は新京極通の道路に、北側は原告寺院への通路に面して存在していること、その上部にはベニヤ板の天井、トタン板の屋根とテントを施していること、その側面はその東、南側は他人の塀、隣家の壁に接着してベニヤ板をはり、北、西側には戸板風の板囲いが取付けられているにすぎず、少なくとも北西角には柱が存しないこと、それには通常の建物におけるような土台や床板はなく、床面は原告寺の門前の石畳のままであること、その面積は約二平方メートルであること、被告はここで土産物販売をしているが、営業中は北、西側の戸板を取払い、陳列台を新京極通の道路にかけて引出し、営業外の時間にはそれを引込んで、戸板をとりつけ、施錠していること、しかし昭和五二年に被告が改造する迄は、右の戸板はなく、そこにアコーディオンカーテンが取付けられているに過ぎず、それらに錠もなかったため、それ迄の占有者は営業外の時間には安価な商品と陳列台を除いて、商品や現金などは自宅に持帰っていたことが認められる。

そして、右検甲各号証、被告本人尋問の結果によれば、右設備のうち、板壁は、被告が古い板壁の上に少し空間をあけて新しい板を張って新しくし、天井も被告が張り直し、板囲いについても、それまであったアコーディオン・カーテンに替えて、施錠できるように被告が取りつけ、テントも被告が備えつけたものであって、右改造にあたって鷹尾浩二の承諾を求めたとはいえ、改造費用は全て被告が負担した事実が認められる。

被告は本件露店設備は高橋元子の所有に属し、それを被告が賃借している旨主張するが、証人高橋元子の証言によれば、高橋は本件露店設備の状況をかなり以前から知らないことが認められ、本件露店設備の状況について全く無関心であることが窺われるのである。

以上の事実及び、本件露店設備が被告の所有に属する旨の被告本人尋問の結果を総合すれば、本件露店設備は被告の所有に属すると認めるべきであり、右認定に反する証人田中正幸の証言は採用できない。

3. その余の請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

二、抗弁について

1. 原告と高橋との間の賃貸借契約の存在(抗弁1)

乙第一五号証の各領収印鑑欄の印影が原告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、真正に成立したものと推定すべき乙第一五号証、及び証人高橋元子の証言を総合すれば、昭和八、九年ころ、原告と高橋元子の父三芳栄之介との間に、本件土地を目的として期間の定めのない賃貸借契約が成立し、三芳栄之介の死後高橋元子の代においても右賃貸借契約が継続されてきた事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

2. 抗弁2の各転貸借の事実については、成立に争いのない乙第二二号証の一ないし三及び乙第二三号証、証人高橋元子の証言により真正に成立したものと認められる乙第二一号証、証人田中正幸の証言により真正に成立したものと認められる乙第二四号証、証人高橋元子及び同田中正幸の証言、並びに被告本人尋問の結果を総合すれば、これを認めることができる。

3. 各転貸借に対する原告の承諾の存否について

(一)  証人高橋元子の証言によれば、昭和二一年ころ高橋元子から田中正幸へ本件土地を転貸するに際して、原告の承諾を得た事実が認められる。しかし、その後前田勝治、鷹尾浩二、被告と順次本件土地が転貸されたことについて、その都度原告が明示的に承諾を与えた事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

(二)  黙示の承諾の存否

証人高橋元子及び同田中正幸の各証言並びに原告代表者及び被告本人の各尋問の結果を総合すれば、(1)田中正幸が昭和三〇年前後に前田勝治に本件土地を転貸して以来、同人、次いで鷹尾浩二が、原告寺院の門前の本件土地を露店営業に使用していたことに対し、原告が格別異議を述べた形跡はないこと、(2)昭和四七年四月ころから被告が本件土地上で露店営業を継続してきたことに対しても、原告は本件訴えを提起するまで格別異議を述べた形跡がなく、昭和五二年ころ、被告が本件露店設備を改造するにあたって、改造についての承諾を得るべく原告方を訪れた際に、原告代表者で原告寺院の住職である荒木本恵らにおいて格別異議を述べていないこと、(3)本件土地が順次転貸されて、前田勝治、鷹尾浩二、被告が順次本件土地で露店営業をしている間、原告は、本件土地の賃借人である高橋元子から、格別右各転貸に対する異議を述べることなく、昭和五五年ころまで賃料を受領してきたことが認められ、これに先に認定した高橋元子から田中正幸への転貸を原告が承諾した事実をあわせ考えれば、原告は、賃借人である高橋元子またはその転借使用を承諾した田中正幸以外の者が本件土地を露店営業に使用している事態をさしつかえなしとし、あるいはやむをえずとしてほおっておいたものと認めるのが相当である。

これに対し、原告は、被告が暴力団に通じていたため異議を述べたくてもできなかった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

もっとも、成立に争いのない乙第二六号証の一ないし四によれば、昭和五四年一二月に原告から高橋元子に対して本件土地の明渡しを申し入れている事実が認められるが、同号証の二の文面を検討すれば、かえって、右申入れまでは原告において原告寺院の門前の使用をやむなしと考えていた事実が窺われるのである。

以上を総合すれば、原告は、本件土地を被告が転借して使用することを黙示的に承諾したものと認めるのが相当である。

三、再抗弁について

1. 再抗弁1の事実(原告の高橋に対する本件土地賃貸借の解約申入)は、成立に争いのない甲第二号証の一及び四により認められる。

2. 同2の事実(その後一年の期間の経過)は、当裁判所に顕著である。

四、再々抗弁について

借地法一条にいう「建物」とは、土地に定着して建設された永続性を有する建物で、屋蓋、周壁を有し、住居、営業、貯蔵等の用に供される独立した不動産をいうものと解されるところ、本件露店設備は前示のとおり、トタン、テントの屋根は設けられているものの、側面は、南と東は既存の他人の壁、塀にベニヤ板を取付け(これは壁というよりは、単なる内装ともいえる)、北、西面は取外し可能な戸板風の板囲を取付けたものにすぎず、土台も床板も、柱(北西角)も存せず、しかも面積も約二平方メートルに過ぎない少面積、簡易なものであって、寺の門前の狭い場所において、東、南の塀、建物をも利用して、商品陳列台を雨露、盗難から防ぐ設備とはいえても、到底独立性を有する建物ということはできない。

そして、昭和五二年までは、本件露店設備の北、西の側面にはアコーディオン・カーテンしか存しなかったのであるから、その状態の本件露店設備は建物ということのできないことは明白である。

この事実によると、原告が高橋元子の父との本件土地賃貸借契約に際し、建物所有の目的であることを約したとはいえず、他に本件土地の賃貸借が建物所有を目的とするものであったことを認めるに足る証拠はない。

そうすると、本件土地賃貸借については、借地法の規定の適用はないから、右賃貸借は前示原告の高橋元子に対する解約申入後一年の期間の経過によって終了したものといわなければならない。よって、被告は原告との関係において、本件土地を占有する権限を喪失するに至ったものである。

五、結論

以上の事実によれば、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井関正裕)

<以下省略>

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